農家さんの思いも背負って。軽井沢のシェフが考える「食の循環」
東急リゾーツ&ステイが展開する東急ハーヴェストクラブ軽井沢&VIALA(以下、軽井沢&VIALA)」では、自慢の軽井沢野菜をはじめ、信州の野菜を使った料理が人気。なかでもレストラン「asama dining」では、和洋さまざまなグルメをビュッフェ形式で味わえるのが魅力です。
ビュッフェといえば、お客さまが食べたいものを、食べたいぶんだけ取り分けられることがメリットの一つでありますが、残った料理は捨てるほかなく、フードロスの問題を抱えているのも事実です。
そんななか軽井沢&VIALAでは、2023年6月からフードロス問題の解決に取り組むべく、「食の循環プロジェクト」がスタート。洋食の料理長を務める川久保智晴シェフと、農家の関根秀博さんに、具体的な取り組み内容や意識の変化について、話を聞きました。
※調理中はマスクをつけますが、撮影のため外しております
東急リゾーツ&ステイ株式会社 料理長
川久保智晴
「ヒルトン東京」で料理人としてのキャリアをスタート。その後、静岡にあるフランス料理店で8年間勤務し、「東急ハーヴェストクラブ熱海伊豆山&VIALA」の開業と同時に、東急リゾーツ&ステイに入社。「東急ハーヴェストクラブ軽井沢&VIALA」の開業ともに異動し、現在に至る。
「ヒルトン東京」で料理人としてのキャリアをスタート。その後、静岡にあるフランス料理店で8年間勤務し、「東急ハーヴェストクラブ熱海伊豆山&VIALA」の開業と同時に、東急リゾーツ&ステイに入社。「東急ハーヴェストクラブ軽井沢&VIALA」の開業ともに異動し、現在に至る。
リエネソーラーファーム東松山 農家
関根秀博
江戸時代から続く農家の13代目。18年間公務員としてまちづくりなどに従事。その後、先端医療に携わりながら少子化や健康寿命の延伸に関心を持つ。近年は食と環境の重要性を感じ、リエネソーラーファーム東松山のソーラーシェアリング事業に参画。
江戸時代から続く農家の13代目。18年間公務員としてまちづくりなどに従事。その後、先端医療に携わりながら少子化や健康寿命の延伸に関心を持つ。近年は食と環境の重要性を感じ、リエネソーラーファーム東松山のソーラーシェアリング事業に参画。
フードロスを目の当たりにしていたシェフが、-560kgの廃棄削減を実現
世間で「サステナブル」という言葉が広がる前から、フードロスの課題を意識していたというのは、軽井沢&VIALAで料理長を務める川久保シェフ。食べ残しの量を削減しようと、ビュッフェで並べる量を調整して食べ残しを減らそうとするも、営業後に残った料理は廃棄するほかありませんでした。
そんな葛藤を抱くなか、軽井沢&VIALAに導入されたのが、「食の循環プロジェクト」でした。ソーラーシェアリング事業を実証する農地「リエネソーラーファーム東松山(埼玉県東松山市)」と共同で始まったプロジェクトです。
このプロジェクトは、リエネソーラーファーム東松山の太陽光発電のもとで育った野菜を軽井沢&VIALAのレストランで提供。余った食品残渣は、レストランに併設されたコンポストで堆肥にし、堆肥はふたたびリエネソーラーファーム東松山や近隣の畑、収穫体験施設の土壌に混ぜ込まれ、循環していくという仕組みです。
川久保シェフはプロジェクトの概要を聞いたとき、「理想的な内容だ」と感じたと言います。実際にプロジェクトの導入以後、レストランのフードロスは大きく減りました。軽井沢&VIALAにコンポストが設置されたのは2023年1月ですが、同年の4月から10月までの生ゴミ廃棄物の量は、前年の同時期に比べ、約560kgも少なかったそう。
川久保シェフ
こんなにも減るものなのか、と驚きました。削減された約560kg分の生ゴミがすべて堆肥になって、農家さんの野菜づくりに役立っていると思うとうれしいです。八百屋や農家の皆さんにとって、「野菜が廃棄されるかもしれない」という不安が解消されることも、サステナブルの一環なのかなと思います。
ソーラーシェアリングは未来の農業の新しいかたちに?
リエネソーラーファーム東松山で畑を営む農家の関根さんは農業をしながら、クリニックや遺伝子検査会社の経営に携わっています。先進医療を専門としていることもあって、科学的にソーラーシェアリングのもとで野菜が育つかどうかに興味を持っていたそうです。
日光のあたり具合は、作物の成長に大きな影響を与えます。関根さんは当初、「畑の上にソーラーパネルを設置して、本当に大丈夫なのだろうか」と疑心暗鬼な気持ちがあったそうですが、現在はトライ&エラーを繰り返し、作物の栽培を楽しみながらプロジェクトに取り組んでいると言います。
関根さん
野菜を育てるには、土壌の状態を知ることも重要です。土のなかの微生物の生存環境を改善するうえで、コンポストの堆肥は、牛糞や豚糞などの家畜堆肥と比較しても効果が高く、使うことにとても意義があると思います。いまはまだ手探りしている最中なので、実証実験的にさまざまな作物をつくっています。これからますます平均気温が上がっていくことが予想されることを鑑みても、ソーラーパネルで人工的な木陰をつくりながら行なう農業には、大きな可能性を感じています。
今後、ソーラーシェアリングは、未来の環境に適応した農業のかたちとして、広く普及していくかもしれません。
おいしい野菜を得るには、農家さんとのコミュニケーションが必須
川久保シェフ自身、リエネソーラーファーム東松山の農地を実際に見たときは、「ここで野菜をつくれるのだろうか。日が当たるのかな、風や雨はどうなのだろうか」という印象を抱いたそうですが、届く野菜は状態がよく、元気なものばかり。
リエネソーラーファーム東松山では、通年でブルーベリー、夏の時期はにんじんと枝豆、冬はほうれん草を栽培しており、取材班が軽井沢&VIALAに訪れたときは、実際にレストランで提供しているほうれん草を使ったキッシュを見せてくれました。レストランを利用するお客さまには、オリジナルのポップをつくったり、スタッフが直接説明したりして、取り組みを伝えています。
スタッフの認知を広めるのも、川久保シェフの仕事。といっても、スタッフのオペレーション自体は、プロジェクト導入以前とほぼ変わりません。
川久保シェフ
リエネソーラーファーム東松山でつくられた野菜をスタッフにも食べてもらい、おいしさを実感してもらったうえで、伝えるようにしています。最初から取り組みを押しつけるのではなく、「気づけばサステナブルだった」というところから、だんだんと意識が変わっていくと嬉しいです。
「食の循環プロジェクト」では、リエネソーラーファーム東松山だけでなく、地元の農家との関係も重要視しています。「軽井沢という土地柄、野菜を期待していらっしゃるお客さまがすごく多くて。とくにこの地域は、キャベツやレタスなどの葉物野菜が、ほかの地域とは比べものにならないくらいおいしいんです。
地元の八百屋さんや農家さんと積極的にコミュニケーションを取りながら、その時々で最良の状態の野菜を提供できるようにしています。
プロジェクトの導入によって、つくり手と直接コミュニケーションを取る機会が増え、野菜の状況をリアルタイムに知れるようになったそうです。
シェフの「一皿」には農家さんの思いも乗る
川久保シェフのなかでもっとも変化したのは、農家さんへの感謝の気持ち。互いの顔を見てやりとりするようになったことで、食材の裏にある背景がシェフのなかでさらにクリアになり、感謝の気持ちが大きくなったといいます。
川久保シェフ
農家さんと関わっていくことで、野菜についてより詳しく知っていきたいなと。こちらの希望も伝えながら、野菜についてのお話を逐一うかがえるようになったときに、メニューの幅が広がっていくのではないかと思っています。
届けていただいた野菜のおいしさを最大限に引き出す料理をつくることで、農家さんにも、お客さまにも喜んでいただける。食材の背景も考えながら、料理の楽しみ方を発信していきたいです。
さらに野菜だけでなく、肉や魚などに対する意識も変わったそう。
川久保シェフ
一皿一皿にいろいろな食材が使われていて、食材のぶんだけ、その向こうにつくり手がいます。お客さまは意識することはないかもしれませんが、農家さん、漁師さんなど、たくさんの方が関わっているんです。背景にあるストーリーや、『食の循環プロジェクト』を伝えることで、サステナブルについて興味を持っていただくきっかけになればと思います。
プロジェクトの導入以前から、「おいしい料理を提供して、お客さまに満足してもらいたい」という思いは変わりません。農家の関根さんも、「つくった野菜をおいしく食べていただきたいという気持ちが一番」だと言い、「その裏には、食の安全性や食糧難の問題などのテーマがあります。食べることをきっかけに、食が抱える課題について理解を深めていきたい」と続けます。
食材の持つ背景や、サステナブルな取り組みを地道に伝え続けて、まずは知ってもらう。軽井沢&VIALAで提供されるその一皿から、食の未来が少しずつ変わっていくのかもしれません。
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