持続可能な観光地へ。ニセコで楽しむ夏の贅沢なひととき
世界屈指のパウダースノーを誇る北海道・ニセコは、スキーヤーやスノーボーダーの聖地として、世界中から多くの観光客を魅了しています。国際的なスキーリゾートとして成長を続けるなか、冬以外のシーズンも楽しめるアクティビティやイベントの拡充、そして持続可能な観光地づくりに力を入れています。
今回は、ニセコの100年先を見据えたオールシーズン型リゾート構想の一環として始まった「NISEKO HIRAFU GREEN PARK」のレポートを中心に、「ニセコ東急リゾート」や「東急リゾーツ&ステイ」が手がけるグリーンシーズンの見どころや生物多様性保全や環境負荷低減などのサステナブルな取り組みを紹介します。NISEKO HIRAFU GREEN PARKの実行委員メンバーである栁沼有美恵さん、髙井愛さん、三浦一斗さんにも、ニセコの夏の魅力についてもお話をうかがいました。
東急不動産株式会社
栁沼有美恵
2012年入社。商業施設のテナントリーシングを約10年間担当し、2023年にホテル・リゾート事業本部に異動。主にニセコのオールシーズン化に向けた取組みやPR・販促を担当。
2012年入社。商業施設のテナントリーシングを約10年間担当し、2023年にホテル・リゾート事業本部に異動。主にニセコのオールシーズン化に向けた取組みやPR・販促を担当。
東急リゾーツ&ステイ株式会社
髙井愛
2021年入社。ニセコ東急 グラン・ヒラフでセールス&マーケティングG、オペレーションGを経て、事業企画Gにて広報やリゾートブランディングを担当。
2021年入社。ニセコ東急 グラン・ヒラフでセールス&マーケティングG、オペレーションGを経て、事業企画Gにて広報やリゾートブランディングを担当。
三浦一斗
ニセコエリア・蘭越町湯里出身。幼少期から山の自然に親しみ、冬はスキー・スノーボード、夏は自然探検や山菜採りを楽しむ生粋の「山の子」。北海道倶知安高校卒業後、ニュージーランドへ留学。現在は、「人と自然をつなぐ」ことにモットーに、廃材を活用した空間づくり事業「shizuku project」を立ち上げ、FAR EAST SNOW SPORTSでインストラクターとしても活動。自家焙煎コーヒーやイベント出店など多彩な趣味を持ち、自然との共生をテーマに、ニセコの魅力を発信し続ける。
ニセコエリア・蘭越町湯里出身。幼少期から山の自然に親しみ、冬はスキー・スノーボード、夏は自然探検や山菜採りを楽しむ生粋の「山の子」。北海道倶知安高校卒業後、ニュージーランドへ留学。現在は、「人と自然をつなぐ」ことにモットーに、廃材を活用した空間づくり事業「shizuku project」を立ち上げ、FAR EAST SNOW SPORTSでインストラクターとしても活動。自家焙煎コーヒーやイベント出店など多彩な趣味を持ち、自然との共生をテーマに、ニセコの魅力を発信し続ける。
ニセコをオールシーズン楽しむための新たな試み
ニセコリゾートの顔である「ひらふ坂」。ホテルや飲食店、ショップが立ち並ぶこのメインエリアを上ると、NISEKO HIRAFU GREEN PARKの目印であるテントとやぐらが見えてきます。
心地良い音楽に誘われて会場に足を踏み入れると、目の前には蝦夷富士(えぞふじ)の異名を持つ「羊蹄山」の壮大な姿が広がります。会場では、スケートボードランプを楽しむ子どもたちや、マルシェやフードトラックがにぎわいを見せていました。
2024年7月13日から9月1日までの約1カ月半にわたって開催されたこのイベントは、「ニセコの夏を五感で楽しむ」をテーマに、自然のなかで幅広い世代がともに楽しめるコンテンツが盛り込まれています。
メインテントには、地元で焙煎したコーヒーや手づくりのパン、スナックを提供するカフェがあり、そのとなりのステージでは、バンドやDJのライブが行なわれました。
さらに、8月9日から15日には「シネマウィーク」と題した野外映画祭を開催。夜空の下、「自然」をテーマに選ばれた名作が巨大スクリーンに映し出され、来場者は芝生のうえでゆったりと映画鑑賞していました。
緑のなかを駆け回る子どもたちやリズムに合わせて体を揺らす大人たち。夕暮れどき、会場がライトアップされると、まるでサーカスがやってきたかのような不思議な情景が広がり、訪れた方々は時間を忘れてこの空間を楽しんでいました。
「逗子映画祭」から受けたインスピレーション
このユニークなイベント「NISEKO HIRAFU GREEN PARK」を企画・運営するのは、民間事業者、行政、地域住民で構成された実行委員会です。東急不動産、ニセコ東急リゾート、東急リゾーツ&ステイもメンバーに名を連ね、さらに倶知安町や観光協会、地元の有志なども参画しています。
実行委員の1人としてイベントの立ち上げに携わった東急不動産株式会社の栁沼有美恵さんは次のように語ります。
「私たちは、シーズンを問わずニセコエリア全体がにぎわうことが、持続的な観光地づくりの一歩だと考えています。地域の飲食店・宿泊施設の利用者の増加、ヒラフエリアに不足しているナイトタイムエコノミー(※)の創出、そして地域住民にも還元できる新しい交流の場をつくりたいという思いが、このイベントの出発地点でした」
※夜間に行なわれる経済活動
栁沼さん
自然の魅力や冬以外のニセコのすばらしさを感じてもらいたい。そこで、「ニセコ東急 グラン・ヒラフ(以下、グラン・ヒラフ)」の目の前にある町管轄の公園を活用し、何かできないかと考えました。このフレームワークのもととなったのは、神奈川県逗子市で開催されている「逗子海岸映画祭」です。
この映画祭をプロデュースするクリエイティブ集団「CINEMA CARAVAN」とのコラボレーションが実現し、ニセコならではの「自然」と「文化」を掛け合わせたイベントづくりが2023年に始動しました。
地元住民が主役となり、持続的で自走するイベントに育てていくために手を挙げたメンバーの一人が三浦一斗さんです。会場設営から出展者・出演者への交渉、プログラムの企画・運営までを一手に引き受けています。
持続可能な人間関係こそがサステナブルリゾートに必要?
「夏のニセコと言えば『NISEKO HIRAFU GREEN PARK』と思ってもらえる場所に育てることが、私たちの理想です」と三浦さんは言います。
三浦さん
観光客の方々には、夏のニセコを楽しむきっかけを、地域住民の方々には町に対して誇りを感じてもらえることが重要だと考えています。地域のハブや情報発信基地として機能させながら、エリア全体に人の流れを生み出し、地元からのイベント参加者も増やす仕組みを、一歩ずつ構築しているところです。
単なるイベントに終始するのではなく、地元に愛され、持続可能な人間関係が築ける場が、本物の「サステナビリティ」ではないでしょうか。
三浦さんによると、同イベントは3つの軸をもとに構成されています。1つは、ニセコが持つ多様なコミュニティ、価値観、文化の「合流点」としての特性を活かすこと。2つ目は、豊かな自然を守り、住民とゲストがともに考える「自然と文化の共生」の空間を創ること。
そして3つ目は、「アクティブな体験」と「何もしない贅沢」を同居させた空間を提供することです。これらを通じて、自然のなかで幅広い世代が楽しめる環境づくりに注力しています。
2回目の開催となった2024年は、出展者やイベント登壇者など2万人以上が関わるイベントとなりました。
「ニセコの豊かな自然を守ることが、私たちの責任」
コンテンツづくりとともに求められるのが、サステナビリティの視点です。とくにインバウンド観光客の環境意識は高く、企業の事業活動やリゾート全体のサステナビリティに対する姿勢が問われています。年間160万人もの観光客が訪れるニセコは、まさにその最前線に立っているといえるでしょう。
NISEKO HIRAFU GREEN PARKでも、環境に配慮した取り組みが行なわれています。たとえば、廃材の活用です。テントのベースになるウッドデッキやベンチ、テーブル、イベントのシンボルでもあるタワーは、廃材や周辺にある植物を使って作成し、消費を減らす工夫をしています。
三浦さんは、「会場内の施設はほぼすべてがメンバーの手づくりです。ネットワークを駆使して廃材を集め、壁面には地域に自生する植物「イタドリ」などを活用しています。イベント終了後は施設を解体して再利用することで、新しい木を伐採する必要がありません」と説明します。
また、東急不動産は、自社の再生エネルギー事業「ReENE(リエネ)」との連携に取り組んでいます。ReENEとの取り組みでは、北海道・松前町の風力発電所で生み出したエネルギーをニセコへ送り、グラン・ヒラフのサマーゴンドラや冬のスキー場の照明として利用しています。
さらに、東急リゾーツ&ステイでは、スキーやスノーボードの滑走性を高めるために塗布するワックスのノンフッ素化を推奨。場内の脱プラスチックも推進しています。
グラン・ヒラフを運営する東急リゾーツ&ステイの髙井愛さんは、「ニセコの豊かな自然を守ることは、私たち事業者の責任でもあります」と強調します。もしもニセコの自然環境に影響が及ぶようなことが起これば、リゾート自体の存続が危ぶまれるからです。
髙井さん
フッ素は自然分解されないため、雪解け水が流れる川や土壌にどのような影響を与え、野生動物や人体にどのような影響を及ぼすのかが未知数な物質として、近年対応が求められています。
東急リゾーツ&ステイでは2年前からオリジナルのスノーボード用ノンフッ素ワックスを開発し、全国の東急スノーリゾートで販売を開始。また、スキー場内の自動販売機の設置台数を減らし、マイボトルを持参した方には無料で水を提供するサービスなどを行なっています。
やりたいことが明確でも、ノープランでも大歓迎
「NISEKO HIRAFU GREEN PARKをきっかけに、ニセコの旅を始めてほしい」と3人は口をそろえます。
髙井さん
自然について触れたり、考えたりしたあと、ぜひ本格的にニセコを楽しんでほしいです。王道のアクティビティはラフティングで、シーズンによって水量が変化し、独特な面白さがあります。とくに雪解け水が川に注ぐ春のシーズンは迫力満点です。
近年はマウンテンバイクが人気で、グラン・ヒラフでは羊蹄山の絶景を楽しめる全長6kmのフロートレイルを整備しています。これは夏だからこそ体験できる、ニセコの楽しみですね。
栁沼さん
ニセコは、食やアクティビティはもちろんのこと、何よりも過ごしやすさと気持ち良さにあります。夏は朝晩が涼しく、空気も澄んでいるので、エリアを散歩するのもおすすめです。自然豊かな環境のなかで、「何もしない贅沢」も最大のご褒美だと思います。
三浦さん
ノープランでも大歓迎ですね。NISEKO HIRAFU GREEN PARKを、訪れれば何も知らなくても、何も予定が決まっていなくても、楽しめる場所にしていきたいと思います。観光客と地域の双方が幸せになるコンテンツをこれからもつくり続けていきます。
50年先、100年先を見据えたリゾートのかたちを追求する、「NISEKO HIRAFU GREEN PARK」。その足跡がいま、しっかりとニセコの大地に刻まれ始めています。
ニセコエリアにおけるサステナブルな取り組み
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